大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和37年(オ)1312号 判決 1963年10月01日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人上西喜代治の上告理由第一点について。

本訴が所論訴の取下との関係で民訴二三七条二項の再訴禁止規定に触れるとの所論は、同条項にいう「本案につき終局判決ありたる後」の意義についての独自の解釈を前提とするものであつて、採用できない。

すなわち、本件の如く、一旦言い渡された第一審の本案の終局判決が第二審で取り消されその効力を失つた後は、差戻後の第一審において改めて本案の終局判決がなされるまでは、訴の取下により失効されるべき「本案の終局判決」は存しなくなつているのであるから、その間における訴の取下については、右二三七条二項所定の再訴禁止の効果を生じないものと解するとして、本訴の提起が同条項に抵触しないことを判断した本件第一審判決は、正当であり、原審もまた、右第一審と同じ判断に立ち、本案の審理に進んだものであることが記録ならびに判文上から窺えるから、原判決に所論違法は存しない。

同第二点について。

所論は、原判決が「本件建物は建物保護法及び借地法にいわゆる建物にあたらない」との誤つた法律解釈適用をして、よつて棚橋正治郎と上告人との間の本件土地賃貸借は右法律にいわゆる建物所有を目的とする賃貸借に該当しないとの誤つた判断をしたという。

しかし、原判決は、挙示の証拠関係から、棚橋正治郎と上告人との間の所論賃貸借の使用目的は、上告人が農産物を集荷してせり売するための農産物の置場として使用するためであり、雨露を凌ぎ日光の直射を防ぐため雨覆程度の簡単なトタン屋根のバラツクを建てることのみが許され、壁、床を設けない約定であつたこと、次いで本件土地上に現に上告人が建築している建物の大半のものがいづれも地面に直接立てた丸太にトタン葺屋根を架し、周囲になんらの障壁のない建物であることなど認定判示して、なお、棚橋は判示事務所を本件土地上にはみ出して建てることを承認したことはないことを認め、以て棚橋と上告人との間の本件土地賃貸借にあつては建物保護法及び借地法にいわゆる建物所有を目的とする賃貸借の合意がなされたと認められない旨を判示していることが原判文上明らかであり、以上の認定判断は、挙示の証拠を記録に当つて検討して肯認できるものである。

すなわち、原判決は、前示所論のように、単に本件建物が所論法律にいわゆる建物にあたらないことのみから、本件土地賃貸借が右法律にいわゆる建物所有を目的とする賃貸借に該当しないと判断しているのではない。

右のとおり、原判決に所論違法は存しないから、所論は採用できない。

同第三点について。

所論は、原判決の理由不備ないし理由そごをいうが、その実質はひつきよう所論の点について原審の専権たる事実の認定を非難するに帰着し、上告適法の理由とならず、所論は採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例